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[HotTopics] 血清PKCδ-慈恵発の肝細胞癌特異的新規バイオマーカー

2022.11.15

血清PKCδ-慈恵発の肝細胞癌特異的新規バイオマーカー


 当医局 及川恒一 講師を筆頭とする肝臓研究グループから, 慈恵医大発の早期肝細胞癌における新規血清バイオマーカーとして同定したPKCδについての論文が Gastro Hep Advances に 2022年8月4日 に掲載されました. ぜひ, 慈恵発の新規バイオマーカーについて我々と一緒に研究してみませんか.

PKCδ Is a Novel Biomarker for Hepatocellular Carcinoma
Tsunekazu Oikawa, Kohji Yamada, Akihito Tsubota, Chisato Saeki, Naoko Tago, Chika Nakagawa, Kaoru Ueda, Hiroshi Kamioka, Tomohiko Taniai, Koichiro Haruki, Masanori Nakano, Yuichi Torisu, Toru Ikegami, Kiyotsugu Yoshida, and Masayuki Saruta. Gastro Hep Advances 2023;2:83-95

原文, 慈恵大からのプレスリリースはこちら↓からクリックを.


概要

 肝細胞癌HCCは日本では5番目に多い予後不良な悪性腫瘍です. HCCに関わらず, 患者の予後をより改善するために早期診断が重要であるのは言うまでもありません.
 HCCでは既存のバイオマーカー(所謂"腫瘍マーカー")としてAFPやDCP(PIVKA-Ⅱ)が用いられていますが, これらはステージが進行するに伴って陽性率が高くなるため, 特にHCCサーベイランスシステムが確立していない非B非C-HCCでは進行癌で見つかるケースが多いことが問題となっています. 単発2cm以下のvery-early stage HCC(BCLC 0)では既存バイオマーカーが陽性とならないことが多いのが現状です. またこの大きさの場合, 一般的な画像所見(腹部エコーや造影CTやMRI)でも特徴的な画像所見を呈しない場合が時に散見され, その場合, 良性悪性の判別困難なことが多いです 注1 注2. 従って, 早期発見を目指したサーベイランスのためのHCC特異的新規バイオマーカーの同定が急務となっています.

 当大学生化学講座の山田幸司講師, 吉田清嗣教授らと当医局の及川恒一講師と猿田雅之教授らの共同研究により, これまで細胞質内のみに局在するとされていたPKCδというタンパク質が, 肝癌細胞で細胞外に放出され, IGF-1RやEGFRを介したERK1/2やSTAT3等の増殖シグナル活性化により細胞増殖亢進に寄与し, 抗PKCδ抗体投与により腫瘍増殖が抑制されることを見出しました. また, この細胞外分泌は正常の肝細胞や胃癌細胞ではみられず, 肝細胞癌細胞のみで観察される特異的な現象で, オートファジーを介した機構が関与していることを明らかにしました[3] [4] [5].
  • Fig1.png
  • Fig2.png
  • 図1, 2 生化学講座 山田幸司講師ら慈恵プレスリリース[6]より

 そこで本研究では, このPKCδがHCC患者の新たなバイオマーカーになり得るかを実際のHCC, 慢性肝炎・肝硬変患者さんからの協力同意を得た上で検討しました.
  • Fig3a.png
  • Fig3b.png
  • 図3 健常人, 慢性肝疾患患者, 肝細胞がん患者における血清PKCδ値分布 (左)および既存マーカー陰性肝細胞がんにおけるPKCδ陽性率 (右)
    肝細胞がんでは健常人や慢性肝疾患と比較して統計学的有意にPKCδ値である.
    既存マーカー陰性肝細胞がんにおけるPKCδ陽性率は42.5%で, これらの組み合わせにより診断能が高くなる.
    ([1]より改変引用)

 結論として, 血清PKCδはHCC診断において既存マーカーAFP, DCPと同等の有用性を持つこと, AFPやDCPとは相関せず, 既存マーカーを相補的に補完し, 組み合わせにより診断能が向上すること, さらに早期発見が困難であるvery early-stageのHCCや, AFP陰性かつDCP陰性のHCCを特定することができる可能性が示されました.
  • Fig4.png
  • 図4 病期における血清PKCδおよび既存マーカーの陽性率
    既存マーカーであるAFP/PIVKA-II陽性率は病期が進行するにつれて陽性率が上昇するが,
    PKCδは各病期である一定の陽性率を占め, 特に超早期に相当するBCLC ステージ 0での陽性率が既存マーカーと比較して高い.
    ([1]より改変引用)

 このように慈恵発の血清PKCδはHCC特異的な新規バイオマーカーとしての有用性が期待できると考えます.
 現在, 実臨床に向けた迅速測定キット等の開発を進めています.


 この文章は論文の一部分を示したものです.
 Free accessですので是非原文をご覧ください.


ページ筆者注釈
注1 BCLC 0では肝切除の他に部分治療(RFA; エコーで見ながら腫瘍を焼く方法)が推奨される.
注2 CTのスクリーニングではスライス厚設定は7-10mmが多い. つまり2cm以下の腫瘍は1-3スライスのみにしか撮像されない.

参考文献
[1] T. Oikawa, K. Yamada, A. Tsubota, et al. Protein Kinase C delta Is a Novel Biomarker for Hepatocellular Carcinoma. Gastro Hep Advances Available online 5 August 2022.
[2] Reig M, Forner A, Rimola J, et al. BCLC strategy for prognosis prediction and treatment recommendation: The 2022 update. J Hepatol 2022;76:681-693.
[3] K. Yamada, T. Oikawa, R. Kizawa, et al. Unconventional Secretion of PKCd Exerts Tumorigenic Function via Stimulation of ERK1/2 Signaling in Liver Cancer. Cancer Res 2021;81:414-25.
[4] K. Yamada, S. Motohashi, T. Oikawa, et al. Extended-synaptotagmin 1 engages in unconventional protein secretion mediated via SEC22B+ vesicle pathway in liver cancer. PNAS 2022;119: e2202730119
[5] K. Yamada, R. Kizawa, A. Yoshida, et al. Extracellular PKCδ signals to epidermal growth factor receptor for tumor proliferation in liver cancer cells. Cancer Sci 2022;113:2378-85.


以上

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